CVCの基礎知識(20項目のQ&A集)

BASIC KNOWLEDGE OF CVC

CVCの基礎知識
(20項目のQ&A集)

CVCに関わる基礎知識を、20項目のQ&Aとしてまとめたものを掲載させていただきます。CVCにご興味のある方がCVCについて理解を深める一助になれば、幸いです。なお、このQ&A集は、内容を拡充させていくことも予定しています。

20項目の

&

  • 01.

    CVCと普通のVCの違いについて教えてください。

    ベンチャーキャピタルは、有望なベンチャー企業を発掘し、投資審査し、そして、未公開株式に投資をして、株式上場(IPO)や大企業等へのM&A(売却)によって、キャピタル・ゲイン(株価値上がり益)得て、フィナンシャルなリターン(金融的なリターン)を得る投資・コンサルティング会社です。CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)は、VCの一つのカテゴリーで、事業会社が設立するファンドもしくは直接本体からベンチャー企業に投資します。フィナンシャルなリターンだけでなく、ファンドの設立母体となった企業の新規事業立ち上げのために寄与する技術やアイディアなどの事業シーズを獲得するための情報探索をし、新規事業立ち上げを推進する方策としてのVCのことです。形態は後述するように、主に4つあります。「イノベーションのジレンマ」で社内から新しいイノベーションが生み出されないといったケースや、準大手企業や中堅企業で中央研究所などからの自社内R&Dが出てこない場合など、外部に新しい事業シーズを求めなければならない状況にある企業のオープン・イノベーションの最適なツールと言えます。

  • 02.

    CVCファンドへの出資は、一社単独で行うのですか?

    通常のVCファンドは、複数の企業等からの出資によって設立されることが多いですが、CVCファンドの場合、固有の新規事業立ち上げの目的のために設立するものですので、出資元企業は1社のみとなることが通常です。プライベート・ファンドの形です。これを、ベンチャーキャピタルとその企業の2社で設立しますので、二人(ににん)組合と呼びます。なお、CVC JAPANは、二人組合の業務執行組合員(投資事業有限責任組合法に基づくファンドの場合は、無限責任組合員)のポジションを得るために、最低1口の出資をします。これは、通常のVCファンドと同じです。CVC設立には主として4つの形態があります。詳しくは、下記のページをご覧ください。

  • 03.

    投資事業有限責任組合と民法上の任意組合の違いについて教えてください。

    1998年に施行された投資事業有限責任組合法(通常、ファンド法)に基づく投資事業有限責任組合の形態を取った場合には、ファンドを運用するベンチャーキャピタルは無限責任組合員(General Partner:GP)と呼ばれ、法的に無限責任を負い、一般の出資者は有限責任組合員(Limited Partner:LP)と呼ばれ、法的責任は出資額の範囲に限定されます。そのため、厳密に有限責任性を求める場合に有益なスキームです。しかし、四半期ごとの時価評価が必要になり、評価増については直近ファイナンス価格、評価減については主観的な基準も含め25%刻みで行うことが必要であったり、決算においては、公認会計士の監査が必要になったりします。また、海外投資が50%未満に制限されます。

    民法上の任意組合の形態を取った場合、時価評価は不要となります。また、監査も不要です。ファンドを運用するベンチャーキャピタルは、業務執行組合員と呼ばれ、一般の出資者は非業務執行組合員と呼ばれます。法的には、非業務執行組合員も、無限責任を負いますが、ファンドが借入を行ったり、訴訟に巻き込まれたりしない限りは、出資額分以上は損失が出ないという実質的には有限となります。日本においては、投資事業有限責任組合法が施行されるまでは、民法上の任意組合の形で、ベンチャーファンドが組成されてきています。民法上の任意組合であれば、海外投資への制限もなく、前述の通り、時価評価も監査もいらないため、機動性もあり、運営コストも低いスキームとなります。

    なお、どちらの形態でも、6月に中間決算、12月に本決算をすることが多く、決算を行います。税務面では、どちらの形態でも、非課税主体となり、パススルーで、出資者それぞれが、ファンドからの収益を税務申告することとなります。

  • 04.

    ファンドの期限はありますか?

    ファンド(投資事業組合)である以上、期限は、必ず設けることとなります(会社型投資信託を除く)。10年が最も多く、5年や7年もあります。ファンドの期限に加え、1年毎ごとの延長で、2年間くらいの延長可能期間を設けることがあります。ちなみに、CVC JAPANが運用するトーヨーカネツ・コーポレートベンチャー投資事業組合は、1号ファンドは5年、2号ファンドは7年で、それぞれ2年間の延長規定が付いています。

  • 05.

    投資ターゲットは、どのように決めるのでしょうか?

    これは、非常に難しい問題であり、CVCファンドを設立・運営するにあたって、設立をしようとする出資元企業様とCVC JAPANで、よく協議して、決めていくこととなります。投資活動を開始した後も、調整することがあります。まずは、自社の経営状況の現状分析をして、経営戦略を立案し、その上で、新規事業として、どのような方向に出るべきかを決めます。そして、既存の経営資源の利用、強み・弱みの分析による強みの活用、将来の企業ビジョンなどに合わせて、投資対象・ターゲットを決定します。どの方向に事業ドメインを広げていくのか、そして、飛び地(既存の事業ドメインから離れた事業)にも投資するのかも、よく検討して決めます。本業に近い事業ドメインを探しにいくのか、少し本業から離れた事業ドメインを探しにいくのかという、本業との距離の観点から投資対象を検討することが重要です。地域についても、日本国内と海外の比率についても、英語対応力なども加味して検討し、決定します。

  • 06.

    CVC投資活動で得られるものは何ですか?

    CVCが獲得を目指すストラテジックなリターンは、大きくは2つあります。1つ目は、既存事業を拡大・進化させるための事業シナジーです。事業シナジーの定義は難しいですが、各社ごとに、自分たちの事業シナジーとは何かを決めて、その獲得を目指すこととなります。2つ目は、新規事業立ち上げのシーズ(技術シーズや事業シーズ)の獲得です。CVC JAPANは、主に、それがCVC投資活動の重要な狙いであると考えています。CVC投資を始める際に、事業シナジーの獲得を狙うのか、新規事業立ち上げのシーズ獲得を狙うのか、明確にすることが、投資活動開始後に、投資方針で混乱することを防ぐために大切でしょう。

  • 07.

    投資の意思決定方法について教えてください。

    ベンチャーキャピタルの投資決定方法には、誰か一人(ファンド運営をするGP側のベンチャーキャピタリストで、キーマン条項に規定される人など)が決める専制君主制、投資委員会メンバーの合議で決めるパートナーシップ制(話し合い)、投資委員会の委員の多数決で決める多数決型、投資委員会の委員の全会一致で決める満場一致型などがあります。LP側やキーマンなど誰かが、拒否権(Refusal Right)を有するケースもあります。CVC JAPANとしては、出資元企業様とCVC JAPANの双方から投資委員会の委員を出して、多数決で決めていくのが、二人組合のCVCファンドの意思決定としてはよいのではと考えています。ただし、投資の意思決定方法によって、投資パフォーマンスも変わってきますので、個別に、出資元企業様と協議をして、そのCVCファンドにとって最適な意思決定方法を決めていきたいと考えています。

  • 08.

    投資候補先をどのように探索するのですか?

    CVC活動の成否は、投資候補先の発掘にかかっています。良い案件を発掘できなければ、投資先企業とのコラボレーションによる新規事業立ち上げができません。ベンチャー企業のビジネスプラン発表会やCVC JAPAN社長の冨田賢の個人的な人脈、CVC JAPANの海外の提携先の企業や大学からの紹介などで、開拓していきます。大学発ベンチャーも、日本でも海外でも有望な候補先です。また、Webサイトからのお問い合わせや、出資元企業(LP企業)のネットワーク・社内からの提案などからも発掘します。

  • 09.

    投資先ベンチャー企業との関わり方どのようにすれば、良いでしょうか?

    CVCファンドは、冒頭の1.での説明のように、フィナンシャルなリターンを求めるのではなく、新規事業にプラスになりそうなベンチャー企業に投資をして、その投資先ベンチャー企業とのコラボレーション(アライアンス)によって、次の時代の収益源となる新規事業を立ち上げることや既存事業との事業シナジーを得ることが目的となります。そのようなストラテジックなリターンを目指すにあたっては、投資をするだけでなく、投資した後に、出資元企業(LP側)の方々も含めて、投資先の育成やアライアンスに積極的に関与していく必要があります。それをしないと、単に投資しただけとなります。CVC JAPANは、そのようなコラボレーション(アライアンス)による新規事業立ち上げを、これまでの約15年間での200社以上の経営コンサルティング経験を生かして、サポートします。

  • 10.

    ストラテジック・リターンとフィナンシャル・リターンのバランスは、どのようになりますか?

    CVCは、新規事業立ち上げや既存事業の事業シナジーのために投資活動を行うものであるため、ストラテジックなリターンを優先させることになります。ただし、完全にフィナンシャルなリターンを無視するのではなく、ある程度、フィナンシャルなリターンを考慮して投資することにより、成長するスタートアップを選別して投資できるようにするとともに、ファンド・パフォーマンスが悪くなり過ぎることを避けることができます。ストラテジックなリターンを重視しつつも、フィナンシャルなリターンとのバランスを取ることが大切となります。

  • 11.

    投資時のバリュエーション(株価算定)はどのようにしますか?

    基本的には、将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引く形で株価を算定するDCF法(ディスカウンティッド・キャッシュフロー法)がメインとなります。ただし、投資候補先スタートアップの希望に対して、協議して相対で合意するところで決めたり、未上場株式投資の相場を加味して決めたりすることもあります。SaaSのビジネスモデルの場合は、別の指標(ARR。年次リカーリング・レベニュー倍率など)から決める場合もあります。株価算定は、公認会計士に行ってもらう形となります。

  • 12.

    投資先のExit方法について、教えてください。

    自社の新規事業になりそうな有望な投資先企業については、信頼関係を構築していき、最終的には、ファンドの出資元企業がファンドから全株を取得して、内部化(インターナリゼーション)して、事業部や子会社とすることが、一つのメインのExit方法となります。または、IPOしたり、他の大手企業等にM&Aで売却したりすることも選択肢となります。ファンドの期限が近づいてきた頃に、各投資先企業にとって、どのExitが最適かを判断して、対処することになります。未上場株式に投資するわけですから、投資する時点で、どのようなExitをさせるかをある程度、想定しておくことも大切です。

  • 13.

    ベンチャーキャピタルのサイクルについて、教えてください。

    ベンチャーキャピタルは、ファンドを募集・組成して、投資案件を発掘し、それを投資審査(デューデリジェンス)して、投資決定・投資実行し、その後、投資先を育成して、投資をEXITさせ、またファンドを募集・組成するというサイクルをたどります。

    このサイクルにおいて、通常のベンチャーキャピタルは、投資の出口(EXIT)が株式公開(IPO)やM&Aであるのに対し、CVCファンドでは、投資の出口が、新規事業の立ち上げ(あるいは事業シナジーの獲得)であるということが違います。別項でも述べましたように、CVCファンドのEXITとしては、投資先企業を買収して、内部化してしまったり、新規事業プロジェクトとして採択したりすることとなります。投資先企業に独立したままで成長してもらい、アライアンスにより新規事業展開をすることも、EXITの一つとなります。その場合には、ファンドの期限が来た際に、ファンドで保有している株式を、出資元企業(LP)の本体に移すこととなります。

  • 14.

    内部留保の有効活用の観点から、CVCについて教えてください。

    大手企業・中堅企業には、毎年の利益を利益剰余金(内部留保)として、大きく貯めている企業が多くあります。実質、無借金経営の企業も多い状況にあります(日経新聞の報道によれば東証1部上場企業の54%)。かつては、そのような会社経営が良いと言われていた時代もありますが、今日は、ROEの観点などから、必ずしも、株式市場等からの評価が得られにくくなっています。保有している資金を、CVC投資に回して、新しい技術やアイディアを取り込んでいくことが求められます。若くて新しいアントレプレナーシップ溢れるベンチャー企業との接点を持っていくことが、企業の発展のために必要だと言えます。

  • 15.

    オープン・イノベーションにおけるCVCの役割について教えてください。

    オープン・イノベーションとは、2003年に、ヘンリー・チェスブロウ(UCバークレーの教授)が提唱した考え方で、外部企業が開発したものを取り込み、外部のものと内部のものを組み合わせて、新しいものを生み出すというものです。オープン・イノベーションにおいては、外部の技術シーズや事業シーズを獲得していくことが必要であり、そのための探索の機能を果たすのがCVCと言えます。CVCによって、新しい技術やビジネスモデルを生み出したベンチャー企業に投資し、それら起業と連携することで、新しい“知”を社内に取り込むことができます。

    CVCは、いわゆるNIH(Not Invented Here)症候群(自社内で開発されたもの以外は意味がないという考え方)から脱出して、自前主義(クローズド・イノベーション)だけの状態から脱却する一助となります。

  • 16.

    CVC活用による新規事業立ち上げに必要なものは何でしょうか?

    CVC活用による新規事業立ち上げには、ベンチャーキャピタルに関する知識・ノウハウと、新規事業立ち上げのノウハウの2つが必要です。CVC JAPANは、社長の冨田賢がベンチャーキャピタルに関する知識と経験を有しているとともに、多くの新規事業立ち上げのコンサルティング経験を有しています。そのため、CVCファンドの運用ができます。

  • 17.

    銀行とベンチャーキャピタルの違いについて教えてください。

    銀行(間接金融)とベンチャーキャピタル(直接金融)を、金融における機能や収益の取り方、審査の視点、企業側からの違いの観点から比較すると、次のようになります。

  • 18.

    投資ステージについて教えてください。

    ベンチャーキャピタル投資では、ベンチャー企業の成長ステージ、すなわち、投資ステージを、シード(種の段階)、アーリー(初期段階)、エクスパンション(発展期)、ミドル(ある程度発展した段階)、レイター(IPOに向けて発展後期段階)に分けて呼びます。

    シード・ステージの投資は「シード・ラウンド」、アーリー・ステージの投資は「プレ・シリーズAラウンド」や「シリーズAラウンド」、エクスパンション・ステージやミドル・ステージの投資は「シリーズBラウンド」や「シリーズCラウンド」などとなります。IPO直前の投資は「プレIPO」と呼びます。

    「シリーズA」、「シリーズB」、「シリーズC」は、単に、第1回目、第2回目、第3回目という意味です。

  • 19.

    マイルストーン投資について教えてください。

    ベンチャーキャピタル投資には、①分散投資の法則(大数の法則)と、②マイルストーン投資の原則の2つの大きな投資原則があります。

    マイルストーン投資は、順調に伸びている投資先に段階的に追加投資していく段階的資金投入の手法です。マイルストーンとはもともと「一里塚」という意味です。

    投資を実行する際、投資先から事業計画書の提出してもらいます。投資後、その事業計画どおりに、3カ月ごと、5~6カ月後、1年後、順調に業績が上がっているかどうかを見ていき、計画どおりに進んでいたら追加投資し、進んでいなかったら追加投資しないという手法です。

    次の図で示したとおり、マイルストーン投資とは、案件A、案件B、案件C、案件D、案件Eの各案件に対し、最初にまずいくらか分散して投資します。例をあげると、もしベンチャーキャピタルが、ある案件に対し1億円投資しようとしたら、いきなり1億円すべてを投資しません。まず、たとえば、30~50百万円を投資して、事業計画通りに事業が成長して、マイルストーンをクリアしたら、またいくらか投資して、それを繰り返します。順調に進捗している案件には、マイルストーンをクリアするたびに追加投資を行い、累積投資額を積み上げていきます。逆に、事業計画通りに進捗しなかった場合は、初回投資までなど、マイルストーンをクリアできなかったところで追加投資をやめることで、累積投資額を抑えます。マイルストーンは、売上・利益などの数字の場合もあれば、開発のフェーズごとの進捗などの事象のこともあります。

    このように、事業計画書どおりに業績が伸びている投資先への投資残高が積みあがっていき、反対に業績が伸びていない投資先は初回の投資で収まる形になるのがマイルストーン投資です。それにより、ファンドのポートフォリオのリスク管理ができます。

  • 20.

    ベンチャーキャピタル投資の特徴は何ですか?

    ベンチャーキャピタル投資の特徴を3つあげるとすると、次のようになります。

    ① 時間がかかる(長期投資、流動性がない)
    ベンチャー投資は結果が出るまでに時間がかかります。半年や1年では結果は出ず、何年かは時間がかかり、長期にわたる投資となります。また、未上場株式への投資となるため、その間、流動性がありません。
    ② 悪い結果ほど先に出る
    投資活動を開始した後、資金繰りに窮するなどして倒産する案件が先に出ることが多く、IPOなどで成果が出る案件は時間がかかり、後になって成功事例が出ることが多いです。
    ③ すべてがうまくいくとはかぎらない(ハイリスク・ハイリターン、分散投資)
    ベンチャー投資は、うまくいく案件もあれば、うまくいかない案件も必ず出てきます。ハイリスク・ハイリターンとなります。

    これらの特徴は、大企業や行政がベンチャー投資に取り組みにくいものと言えます。しかし、だからと言って、オープン・イノベーションのためのCVC投資をしていないと、中長期的な収益源が枯渇してしまいます。やはり、計画的にいくらくらいの資金枠をCVC投資に回すかを決め、粘り強く、CVC投資を継続していくことが大切です。

この基礎知識(Q&A集)で
不明なことがございましたら、
CVC JAPANまで、お問い合わせフォームからお問い合わせください。
また、CVCファンド設立にご興味がある
企業の方も、是非、御連絡ください。

皆様からのお問い合わせ、お待ちしております。

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